沢田ろうそくまつり



弘前の南西には合併以前、相馬村という村があった。
白神山地を背に三方を山に囲まれ、りんごを中心に農業が盛んな地域。

のどかな田舎のイメージを切り抜いたような相馬地区は、
城やねぷたとは異なった「昔ながら」が沢山残っている場所でもある。

毎年旧小正月に行われる沢田ろうそくまつりの記録です。




暖冬とはいっても、この日の最低気温は-2℃。
いくら市内でも、雪の多く残る山奥に自転車で気軽に行ける季節ではない。

夜になれば路面は凍るし、除雪した雪山は道幅を狭めて視界を遮る。
雪に覆われた道をスパイクタイヤで走る楽しさもあるけど、今日は別。

シャトルバスも出てるし。


弘前駅から約6kmの発着場所。JAって交通機関だったんですね。

すぐ近くに湯口バス停があり、市外から来る人は弘南バスから乗り継ぐこともできる。
ただしバスターミナル行きの最終便が18時台なので、帰りはタクシーを使わざるを得ない。
沢田ろうそくまつりはツアーバスもあるようなので、観光客にはそちらがメインになるかも。

会場には駐車場がないので自家用車持ちの人もバスの利用がオススメです。


少し待っているとバスがやってきた。

随分年季が入っていそう。
軽く調べてみると1990年前後生まれの車両らしい。


ほどなく満席に近い状態に。

ここから沢田神明宮まで、エンジンの振動に揺られて20分の道のり。
畑と民家の間に、沢山の除雪車が停まっていた。


2月下旬、ひょっとすると早めの雪解けで一息ついてる感じでしょうか。
除雪車ってカッコいいと思うけど、雪国の人には基本疎まれがちだったりします。

大雪が降ると夜明けとともに、除雪ドーザーが路肩に雪を寄せて平らな道を作る。
路面の固まった雪もゴリゴリ削るから、この雪山が随分重い。
民家の駐車場にもうず高く積まれていくので、除雪車のエンジン音が聞こえる朝は早起きして片付けないと出勤もままならない。
そういった事情で、頼もしいながら負のイメージを抱く人も少なからずいたり。

いないと大変困るので、夜中に作業しているのを見かけると頑張れーと思ってます。


さだまさしの詩に『津軽』という曲がある。

その歌い出しに林檎の樹が登場するのですが「土蜘蛛のごとくうずくまる」と喩えた表現が冬の津軽のイメージを見事に表していて、とても好きな一節。
さだまさし自身、方言詩人の高木恭造氏と縁がありよく足を運んでいたそうで、詩に込もった実感にも納得がいく。

以上趣味の話。
バスや電車は、関係ないことを考えていても勝手に進んでくれるのが大変いい。


バス停からはしばらく歩き。
この先はその写真以上の密度で縦列駐車がズラッと並んでいるので、やっぱり最初書いたように自家用車での来場は難しいところ。

もし冬山や冬の青森を訪れたことがない人が足を運ぶ機会があるなら、防寒はもちろん滑らないブーツや長靴を強くオススメします。快適さをかなり左右する要素。


雪が好きな理由のひとつが、この季節しかない冬の明かり。好き。

低い雲と地表が光を反射して、街灯がない場所でも都市とは違ったぼんやりとした明るさがある。雪が音を吸うせいで周囲の人も車も実際の距離以上に遠く感じる。

これで雪かきがなければ最高。


現地はちょっとしたお祭り会場で、お囃子や出店で賑わっている。

缶コーヒー、甘酒、お酒とつまみにご当地グルメ。
寒い屋外でというのがたまらないですよね。たまらん。


受付の人に500円玉を渡すと大きなロウソクがタダで貰える。やったぜ!


奥に見える祠が「岩谷堂」。

ぱっと見普通の小屋だけど、中は岩肌に屋根と壁を取付けた不思議な空間になっている。




急斜面を上って岩谷堂へ入ると、祠の明るさの正体が分かる。

岩肌一面にロウソクを刺す風習は、翌朝の蝋の垂れ具合で作物の豊凶を占う伝統から来ている。
これが始まったという450年前は栽培されていなかったはずだけど、現在ではりんごの豊作を願うことになるんだろうか。

ここを訪れて以降、落語の『死神』終盤のイメージがすっかりこの光景になりました。



狭いお堂は絶えず人が入れ替わって、次々に灯りを灯していく。

登山囃子の演奏、松明行列、静かなお祭りは帰る頃になっても続いていた。
あったかい飲み物を口にして一息ついたら丁度バスの来る時間に。


ローカルニュースでも毎年報じられるから存在は知っていたけど、地元でずっと暮らしながら全く知らない風習が色々あった。

東北もあちこち行ったけど、特に冬に訪れた場所は少ないので敢えてこの季節に色んな場所に足を運べば、見たことのない景色に出会えるかもしれないと思ったり。


(投稿日 2017.9.23)

コメント