沼に落ちないために手持ちレンズを再評価する話

カメラ機材のレビュー第3弾。
フルサイズ導入記の蛇足的な、そして切っても切れないレンズの話。
サイクリングに使えそうな小さめのものを色々と試してみたので、その中でも使用頻度が高くて気に入った3本を取り上げていく。

その3本はこちら。

3. HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
2. smc PENTAX-D FA Macro 100mm F2.8 WR
1. smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limited


上から順に小型望遠レンズ・望遠マクロ・広角単焦点と並んだ。
望遠とマクロについては「未知の体験」という意味もあって買ってよかったし、その点では春先に使い始めた魚眼レンズも面白かった。そして一番下のFA31mm F1.8 Limited、略してFA31は特に普遍的な画角ではないにも関わらず単なる描写の良さが別格というだけでラストに取り上げることにした。

レンズの名称について、焦点距離とF値はメーカー間で共通しているスペックなので他社ユーザーの人でも理解しやすいしED(特殊分散ガラス)、AL(非球面レンズ)、WR(防滴)なども見慣れた人にとってはお馴染の表記。

初見で分かりづらい表記を補足すると
smc / HD = 表面反射を防ぐコーティングの世代。HDの方が新しく逆光耐性や解像度が高い傾向。
DC / SDM / PLM = 直流/超音波/ステッピングモーター。表記無しはボディ内モーター駆動AF。
DA / FA / D FA = デジタル専用(=APS-C専用)、フィルム(35mm判)用、デジタルフルサイズ用。*
※PENTAXの場合APS-C用 / フルサイズ用はケラレの有無のみでマウントは完全に互換。


ここで他社製品を使っている人は「あれ?手ブレ補正は?」と思ったかもしれない。メーカーによってはレンズ内に手ブレを安定させるための補正用レンズを内蔵しているモデルがあり、OSやOISと表記されている。PENTAXの場合はデジタル一眼初期からボディ内手ブレ補正を採用していて、最新機では5.5段5軸補正にまで進化している。(カタログ上であまり大きく書いてないのは、レンズの焦点距離など条件次第で何段と明記するのが難しい側面もありそう)

どんなレンズでも問答無用で補正が効くほかレンズ自体小型化できるメリットもあり、おそらくは可動部品が無いぶん耐久性も上がる(と思う)。5万円前後からミドルグレードのレンズに手を伸ばせる理由とも無関係ではない(と思う)。アストロトレーサーなど独自機能に昇華しているのも評価できる点。ただ超望遠ではファインダーを覗いたときに像がブレやすいし、そもそもボディ内手ブレ補正も最近は採用しているメーカーが多くレンズ補正との協調まで出来るから、そろそろPENTAXにも頑張って欲しいなと思う部分。

補足を加えたところで、早速上から順に紹介していきたい。

3. HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE

フルサイズ換算で約85-460mmを幅広くカバーしてくれる望遠ズーム

KP-3618

DAシリーズなのでAPS-C専用。沈胴式の鏡筒は収納時わずか89mm!

交通系ICカードやクレジットカードの長辺が約86mmなので、だいたいそれぐらいの長さだと思えば小ささが伝わると思う。収納機構のために鏡筒が若干太めだったりF値が旧型より1/3段暗かったりとトレードオフな部分もあるけど、新しめのレンズだけあって逆光にも強く性能面で欠点らしい欠点が見当たらない。おまけにPENTAXで最速静音のPLMモーターを採用しているので動体にも結構対応できる。これだけ揃って価格が4万円前半というのは相場的にかなりお手頃だと思う。

KP-8243

ズームレンズにありがちな、特定の焦点距離でひどく描写が落ちるような傾向もない。同じくミドルレンジの16-85mm(換算約24-130mm)との2本体制であらゆる被写体をカバーできる軽量システムが組めるのはAPS-Cならでは。たまに枝葉の二線ボケが目立つこともあるけど全く発生しないレンズというのも稀だし、どちらもズームとしてはボケも優秀。F値が物足りなければ被写体に寄ればよいのです(!)

KP-4662

強いて言えば沈胴機構のロック解除でワンテンポ手間取る欠点はあるけど、それよりバッグの隙間に気兼ねなく突っ込んでおける携帯性が重要。コンパクト、高倍率、防滴とシチュエーションへの対応力が高く、ツーリングの交換レンズにはもってこい。「撮りたい瞬間に手元にあること」の大事さを実感できるレンズ。

また、絞りレバーを廃した電磁絞り、フォーカスリングが機械的に連動していないパワーフォーカスを採用するなど、Kマウントレンズの中では異色と言えるほど電子化されまくっている点も特徴。それもあってか気のせいかもというレベルだけど、撮影の合間に電源を入れ直したタイミングで「あれ?フォーカス位置変わってる?」と感じることがたまにある。旧型のボディに非対応だったり通電してない状態ではピント合わせが出来ないなど、人によってはそこがデメリットとなるかもしれない(個人的な例として、小型の望遠レンズは単眼鏡代わりに重宝する場面もある)。

×1.4リアコンバーターも導入してみたので、一応ツーリング装備で300×1.4×1.53=約640mm相当の望遠にまで手を伸ばすことができそう。そちらの組み合わせも撮り溜めできたら追記していきたい。

(2021.12.27追記)

メンテナンスに出していたDA55-300PLMが思ったより早く返ってきたのでリアコンつきで色々試し撮りしてみた。焦点距離が1.4倍になるぶん明るさが1.4分の1(=1段暗くなる)、そして特に開放性能が落ちやすいのは概ね想定通り。全てのレンズで試してはいないものの、1段絞れば拡大しないと分からない程度の劣化で済むように思う。


同じ範囲でトリミング(上)と等倍同士を比較。三脚使用 & 電子シャッター。
開放やテレ端は甘さが目立ったものの、420mmの作例はシャッタースピードが遅すぎてブレの影響を完全に取り除けたか確証が持てていないので評価保留中。

AF速度は体感レベルで特に遅くなった実感はない。ただ精度は甘くなりがちかも。メーカー公式の対応表でもDA55-300PLMとの組み合わせは「位相差AF:△」とのこと。KPの光学ファインダーでも被写体のサイズによっては勘に頼る部分がある。

KP-9367

後述のDFA100mmに関してはリアコンなしの画像をトリミングするよりリアコンをつけたほうが遠くの被写体を綺麗に写せる、という結論に至ったけどDA55-300PLMに関してはかなり絶妙な差で、場面によっては素直に単体で使用して必要に応じてトリミングする方がメリットが多いと感じた。テレ端の開放F値は9.5で、動体相手だとF11〜14あたりが画質とSSのバランス的に使えそうな範囲。曇りの日や被写体が日陰にいる状態だとあまり余裕はなくシビアな撮影になる。本来もっと明るいレンズにつける用途がメインの製品なので、そこは取り回しの良さとのトレードオフということで。

あと最大撮影倍率も1.4倍になるので、元々寄れるこのレンズを簡易マクロっぽく使うという手もある。


地味に驚いたのは、ふと上空のヘリコプターを撮影してみたとき。

後で調べてみると撮影地点から航路までほぼ1km離れていて、機体記号どころか所属団体の漢字も画数が少ないものは読み取れた。たぶんリアコン無しでもアルファベットぐらいはギリギリ読めた気がするけど、このリアコンも結構コンパクトなつくりなので付けっぱなしか、鞄に忍ばせておいてもまあ損はない気がする。


2. smc PENTAX-D FA Macro 100mm F2.8 WR

虫撮り・風景・記録と多用途な小型サブレンズ

KP-1130

マクロレンズとは「被写体と同じ大きさの像をセンサーに写せるレンズ(=等倍マクロ)」のこと。普通のレンズだと0.25倍(クオーターマクロ)でも結構寄れる方なので、1倍という最大撮影倍率はもはや別の次元。標準寄りのマクロは被写体との距離が近すぎて植物や物撮り専門といった感じなので、やっぱり100mmぐらいあると扱いやすい。

K1MK2-21004

マクロレンズというと近接専用で遠景向けには設計されていないのでは?と思いがちだけど、少なくともDFA100に関しては被写体の距離で解像力不足を感じるようなことはない。なので風景用の望遠レンズとしても積極的に持ち出している。最後に書く31mm広角レンズのサブとして持ち歩いてもいいし、自転車ではなく歩きならフルサイズに31mm、APS-Cに100mm(換算約150mm)を装着して、広角レンズでは対応できない被写体に素早く対応できるのも良い。自分の場合だとばったり遭遇した動物にも即対応できるようその組み合わせにすることが多い。

K1MK2-21015

ただし先程の55-300mmPLMとは違いボディ内モーター駆動なのでAF速度はゆっくり目。F2.8の明るさは暗所に強いものの、ボケ目的では1、2段絞らないと後処理しきれないパープルフリンジ(明度差の激しい輪郭などに現れる紫色のフチ取り)が出やすいなどそれなりに癖はある。緻密な描写をする小型レンズという特性を活かせるならその辺りを補えるだけの魅力がある。ツーリングに持っていく場合だと小型のフードポーチに軽く収まるほど携帯性が良い。

こちらのレンズも×1.4リアコンで140mm/F4の望遠レンズ的な運用ができるかも & 当倍以上のマクロ撮影が可能になるので、面白い使い道が増えたら追記したい。

(2021.12.27追記)

DA55-300PLM & リアコンの試し撮りの際同時に試写。リアコンなしの開放F値2.8に対して140mm/F4相当となる。三脚に固定、ほぼ同じピント位置の被写界深度ブラケット撮影という方法でF2.8、4、5.6、8、11……と1段ずつ比較撮影してみた。

上から開放同士(F2.8 / F4)、絞り値合わせ(F4 / F4、F11 / F11)
100mmのトリミングと140mmを比較すると、リアコンありの方が葉脈の描写などが細やか。

縮小画像で並べられたら分からない程度の差ではあるけど、画質的には

100mm開放(F2.8) < 140mm開放(F4)
100mm絞り1段(F4) ≦ 140mm開放(F4) ※ほんとにちょっぴり、イコールと言っても差し支えない
100mm絞り5段(F16) < 140mm絞り4段(F16)

・開放同士はリアコンありの方がトリミングより綺麗
・絞り値が一緒だと開放側では絶妙な違い、絞るほど差が出てくる

という結果だった。

KP-9440

このリアコンで被写体を大きく写したいなら1段、可能なら2段以上絞るのが良さそう。ただDFA100は開放性能が甘めに出やすいレンズなので、他で検証するとまた違うのかも。レンズによってほとんど絞らずOKなものもあればさらに使用機会が増えそう。

KP-9434

ついでに超等倍マクロ撮影もしてみた。確か元の葉っぱは1cmあるかないかぐらいではなかったろうか。肉眼でぱっと見たときはこんなに産毛に覆われているようには見えなかった。F8まで絞ってこの被写界深度なのでいつ使うのかといった感じだけど、これはこれで肉眼以上の世界が見られて楽しい。


1. smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limited

銘玉の名に恥じない万能レンズ。無人島へ1本だけ持っていくならこれにしたい。

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PENTAXを使っていると必ず耳にする「Limitedレンズ」という単語。
すごく平たく言えば「小型かつ高性能でレンズ自体の質感も重視したレンズ」というラインナップで、特に限定生産とかではなくリニューアル前を含めるとかれこれ25年ぐらい生産されている。小型かつ高性能というのは「収差の除去=大型化」の逆、つまり「収差をいい感じに残しながら小型に拘る」というコンセプトで、メーカーは数値評価ではなく官能評価を重視したレンズと表現している。

個人的にはこのフワッとした表現がなんとも怪しく宗教めいたものを感じさせてしまう要因だと思っていて、実際使ってみるまでは「単焦点だからそりゃ多少は良いに決まってるでしょ」ぐらいのイメージだった。そしてフルサイズ機を導入したノリでふと試してみたら想像以上に良い製品。フィルム時代に設計されたにも関わらず3600万画素の解像度にちゃんとついてくる。

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ちなみにLimitedレンズは35mm判(フルサイズ)用の「FA Limited」とデジタル(APS-C)用の「DA Limited」の2シリーズが展開されていて、フルサイズ用としては約20年ぶりに新設計された「D FA Limited」が2021年になって1本加わった。
FA Limitedが既に小型でAPS-C機用としても人気が高かったので、DA Limitedはさらに小型さを追求。その分初代FAでは全てF2を切る明るさで統一されていたものがF2.8〜F4とやや暗めになっている。しかし(特にコーティング更新後は)コンパクトさと写りの高いバランス、アルミ削り出しの鏡筒、携帯性を重視した専用フードなどのコンセプトは引き継がれている。

公式からもユーザーからもフワッとした評価をされがちなLimitedレンズ。ひとつひとつ説明していくのはつまらない事かもしれないけどなんせ言葉にしないと伝わりづらいので、実際に使っているFA31について言語化に挑戦してみたい。要点をまとめると「抜けの良さ・自然なボケとシャープなピント面の対比・いい感じの周辺減光」が組み合わさる形で「被写体を浮き上がらせる印象的な画作り」に成功しているのだと思う。

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ボケ量だけならもっと大口径の製品もあるし、等倍で比較したときのシャープさは流石に最新レンズに及ばないとは感じる。でもそれを成立させているのが300g台でプッチンプリンの容器ぐらいの小型レンズとなると話は変わる。アルミ鏡筒も触っただけでビルドクオリティの高さが伝わってくるもので、"ついつい手に取りたくなる道具"というのはどんな趣味においてもいいアウトプットに繋がりやすい。

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開放付近ではボケ感と周辺減光が際立つ一方、絞ると一気に今風の画になるのも面白い部分。コントラストの高さや色のりはそのままなので風景撮影でも満足がいく。FAシリーズだと43mm・77mmは柔らかさが評価されているなか、31mmはこの使い分けがハッキリしているように感じる。クロップすればほぼ50mmの標準レンズとして使用することもできる。

ちなみに"万能"と題したのは「そのときの景色の印象をばっちり写してくれる」ということで、たとえばこのレンズで鳥などを撮ろうとしたら焦点距離は圧倒的に足りない。だから10倍ズームレンズのような万能さではないけれど、FA31を持ち歩いてあちこち出かけてみた後は不思議と「あれを撮りこぼしたな」という感覚がなかったりする。はじめから選択肢が一本道に絞られている単焦点だからということもあるけれど。

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今回購入した旧版に採用されているsmcコーティングは一昔以上前の技術。ロングセラー製品のLimitedシリーズも、現行品のリニューアル版は全てHDコーティング化されている。実際に比較をした訳ではないけどsmcコーティング自体の逆光性能はそれほど悪くはなく、ちょっとやそっと光源が入っても画質への影響はさほど感じない。意図的にゴーストやフレアを取り込むなど、古びた雰囲気で撮るならむしろこちらもアリに思えてくる。フレーム外の光源対策でフードを延長する方法もあるけど個人的には条件が厳しいときだけ手でハレ切りすれば十分写るかなとも。

開放だとフリンジも結構出るので、そこが気になる人はHDコーティング版を比較した上での検討か、スターレンズにいくのが良いかもしれない。FA Limitedレンズは非防滴、ボディ内モーター駆動、クイックシフトフォーカス(=フルタイムマニュアル)非対応など機能面は古いままなので、その辺りを重視する人は注意が必要。

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FA31は自転車にたとえると「気軽に時速30km以上出せて全然フラつかない、なぜかロードバイクと並走できるミニベロ」みたいな感じで、愛用者が多いのも頷ける。逆に言うと小型ゆえの気軽さ、優位性があまりメリットにならない使い方をする人には物足りない部分が際立つのかもしれない。でもロード並に走れるミニベロって時点で何かが色々とヤバイ。そんな自転車があったら間違いなく買ってる。


自転車沼とカメラ沼


カメラの交換レンズはしばしばスポーツ自転車のホイールに喩えられる。でも待って欲しい、自転車のホイールはメーカー間で規格が共通してるしタイヤやスプロケットも共有できる。ロードなら練習用と決戦用の2本、ヒルクライム用まで含めて3本もあればまず不自由はしないしそれ以上持っていても使わないので手放すにしても躊躇はない。ディスクロードが台頭してまた事情が変わりつつあるけど、そっちも規格としてはほぼ1本化されている。


しかし、ことカメラのレンズにおいてはタイヤ・チューブ・スポークの種類、組み方、リム幅とリムハイト、スプロケットの歯数や段数、すべてがホイール固有値で決まっているようなもの。しかもエンド幅から固定方法までメーカー独自規格なので安易な鞍替えは許されない。このホイールは硬いからタイヤを変えてみようとか乗り心地を良くするためにチューブレス化してみようとかそんなコスパの良い方法は皆無。どちらかというとサドル沼に近い。

当ブログは自転車ブログだからこんな喩えをしてみたのだけれど、もうここまで書いたら「正しいレンズの選び方」は十分伝わったはず。


そう、全部です。


全部使えばいいのです。




おわりー

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