【機材紹介】PENTAX KPと自転車旅の話
2017年発売のペンタックスAPS-Cミドルレンジ、KP。
既存モデルと異なるラインナップとして、小さなボディには個性と機能がたっぷり詰め込まれている。
カメラボディ単体で取り上げる記事は実は初めて。今さらながらレビューします。
今回は直近までメインで使用していたK-5IIを基準に比較していきたい。
はたして、その体験に値するスペックアップを果たせたのか?
結論から言えば「バッチリ」だった。
2022年11月時点での評価
APS-C一眼レフのラインナップも様変わりし、フラッグシップ(K-3III)とスタンダード(KF)の棲み分けがハッキリしてきた。
新型のKFの中身はほぼ旧エントリー機のK-70なので、中級機が実質消失した形となる。
K-70 < KP ≦ K-3II < K-1II
というスペック的並びだった2018年までのラインナップが
KF < K-3III = K-1II
と2022年ではある意味分かりやすくなった形だ。
KFのネーミングをK-90にしなかったことからも、KP後継は考えてないというのが実際ではないだろうか。
というわけで追記時点では「中古のKPを敢えて入手する価値はあるか?」という焦点が浮上している。
K-3IIIと比較すると液晶の使いやすさ、KFと比較すると高感度耐性・操作性・堅牢性において依然優れた一眼レフなのは確かだ。
K-3IIIの1.05倍の明るい光学ファインダーやAF性能、最新機に搭載されたカスタムイメージ、
そして最新ファームウェアや修理サポートなどの恩恵を重視しないなら中古相場的にも入手しやすく推せる一台。
少なくとも、一眼レフ(Kマウント)を始めてみたいけどボディ10万以内で一番いいのを……と言われたらノータイムで勧められる。
最近はバッテリーグリップ装備で望遠担当として活躍してます。KPいいぞKP。
◎ 高感度耐性
KPを歴代PENTAX機と比べるならまずはここ。
このサイズ感の一眼レフでISO6400まで常用できるのは嬉しい!
拡大して見ない用途かつ多少のレタッチ込みならISO12800は許容できる。
ちなみにK-5IIだとISO1600〜3200が許容の上限で、ISO6400以上は非常用だった。
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ISO1600だとトリミングや拡大にも堪えるので、もちろん鑑賞サイズでも支障なし。 smc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL[IF] DC WR 1/15s f/7.1 ISO1600 135mm |
「同条件ならフルサイズ(フルフレーム)機と比べてAPS-C機はノイズに弱い」という一般論には全く異論がないし、さすがに同世代フルサイズ機以上の期待を寄せるのは行き過ぎだとは思う。かといって普通の撮影で高感度ノイズに足を引っ張られる感覚は全く無い。
APS-Cのコンパクトなシステムで暗所耐性が高いのは立派な長所だ。
ちなみにK-1ゆずりの機能としてセンサーを微細に動かした画像を合成して高画質化する「リアルレゾリューション(以下リアレゾ)」があり、より多くの情報を記録することで擬色やノイズの低減が可能。ソニーで言うピクセルマルチシフト、オリンパスで言うハイレゾショットに相当する、ボディ内手ブレ補正機構を活かした機能だ。
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左が通常撮影、右がリアレゾ。 電線がくっきり写っているのはもちろん遠景の描写も緻密になっている。 |
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ISO100でも露出やシャドーを持ち上げるとノイズが浮いてきたりするけど 右のリアレゾver.はまじまじ眺めてもほとんど分からないノイズ量。 つまり風景を露出アンダーで撮影したときも現像の自由度が高くて、これは鑑賞サイズでも違いが出てくる。 |
ただしこの機能では後に発売されたK-1IIの「リアルレゾリューションII」を除いて三脚の使用が必須で、RAWデータのファイルサイズも100MBクラスになってくる。
普段使わないとつい忘れてしまうけれど、ここぞという風景撮影で活用していきたい。
ちなみにISO100〜819200で感度を1段ずつ上げてリアレゾあり/なしの写真を撮影して簡単なテストをしてみると、各感度ごとのノイズや解像度で言えばこの機能をONにすることで1段分以上に相当する画質改善が見られた。例えばISO12800で夜景を撮影するとして、三脚を据えてリアレゾをONにするとISO6400で撮影した場合よりも僅かにシャープな解像度が得られる。低感度域、超高感度域でも同等の画質改善が確認できた。
KPの「最高ISO感度819200」というスペックはハッタリという印象を与えることもあるが、この機能を加味すると少し見え方が変わってくる。個人的にはISO20万などは、鑑賞目的の写真としては完全にNGだけど(リアレゾ+現像時のノイズ処理込みで)ブログのサムネイルサイズなら使えなくもないかな…という感想。もしかしたら活かせる場面はあるかも。ただしISO40〜80万の超々高感度域はリアレゾONで相当変わるとはいえ「何が写ってるか分かる程度」以上のものは望めない。
そして実用的な感度で言うと、ISO25600〜51200あたりはパッと見そんなに悪くない。これはシチュエーンションによっては使えるかも。
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具体的にはこういうロケーションや時間帯で「あ、リアレゾで撮っとけば追い込めたな…」と思うことがしばしば。 撮影者のワザマエがまだまだ足りてないので使い込んでいきたい機能。 HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE 1/160s f/10 ISO400 55mm リアレゾなし |
リアルレゾリューションについて熱く語ったものの、完全に活かすには「三脚への固定」「ほぼ動かない被写体」という条件が意外と難しい。さらに強制的に電子シャッター撮影となるので、自然光・白熱灯以外の環境ならフリッカー対策で1/80秒より遅いシャッタースピードになるよう一応注意が要る。こういった条件が揃う前提でISO25600まで常用!と言い張るのはやや無理があるので、やはり自分の中ではISO6400をひとつの基準としておきたい。
風景撮影メインの自分にKPの高感度耐性は無用の長物にも思えたけれど、カメラを向けてみようと思える被写体が明らかに増えたのは収穫だった。
以下に感度ごとの作例と活用できるシチュエーションの例を。
(JPEG撮って出しではないけど、ノイズ除去なしでRAW現像してみたもの)
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ISO3200、暗い木陰で咄嗟に構えることの多い未舗装路。高感度耐性は意外と日中でも活躍する。 smc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL[IF] DC WR 1/500s f/8.0 ISO3200 115mm |
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ISO6400、最低限のシャッタースピードを確保して手持ちで挑んでみた。 桜のピンクや橋の朱色は階調が保たれている。 HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE 1/15s f/4.5 ISO6400 120mm |
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ISO12800、天幕に覆われ僅かな反射光と裸電球が頼りのサーカス小屋。レタッチ無しでもノイズはよく抑えられている模様。 smc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL[IF] DC WR 1/2000s f/4.5 ISO12800 18mm |
◎五段五軸ボディ内手ブレ補正
K-5IIが三段だったので順当に進化。そして2021年現在でも問題なく通用する水準。
例えばK-5IIだと1/30秒でブレなかった撮影条件で、KPなら1/8秒露光してもブレないことになる……というのは少々乱暴な理屈。実際は条件次第だし被写体ブレの問題もあるけど、集中してホールドできる状況ならDA18-135mmをめいっぱいズームした状態で1/15あたりまではなんとか撮影できた。
前述の高感度ノイズの低減と合わせて、暗所でも手持ちで撮影できるシーンは倍増したと言ってもまったく過言ではない。
つけ加えると電子シャッターが使えるので、これも低速シャッターを使う際はメリット。
K-5IIが三段だったので順当に進化。そして2021年現在でも問題なく通用する水準。
例えばK-5IIだと1/30秒でブレなかった撮影条件で、KPなら1/8秒露光してもブレないことになる……というのは少々乱暴な理屈。実際は条件次第だし被写体ブレの問題もあるけど、集中してホールドできる状況ならDA18-135mmをめいっぱいズームした状態で1/15あたりまではなんとか撮影できた。
つけ加えると電子シャッターが使えるので、これも低速シャッターを使う際はメリット。
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望遠の手ブレ対策はもちろん、広角域でも絞り値を気にする余裕が生まれた。 smc PENTAX-DA 10-17mm F3.5-4.5 ED [IF] Fisheye zoom 1/8s f/11 ISO1600 14mm |
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……こういう まあ雨の日はやらないけど! |
そしてKPには外観から分かる通り肩液晶が無く、薄型のボディにはぎっしりとダイヤルがついている。
K-5IIの操作系とは若干異なっていて最初は戸惑ったものの、肩液晶を必要としない撮影スタイルだったこともあり最終的にはこちらの方がより快適になった。撮影時に必要な操作がほとんど片手に集中している点はK-5IIと共通。
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特に未舗装路の腹ばいスタイルは覚悟が必要なのでチルトが便利。 モード切替えから角度調整まで、レンズを保持したまま片手でできる。 smc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL[IF] DC WR 1/80s f/7.1 ISO400 100mm 銀残し |
そしてK-1世代から導入された「アウトドアモニター」が何気に便利。
サブのダイヤルで液晶の明るさを+-で二段階調整できるというもので、この機能は単にバックライトが明るくなるだけではなく、実際の屋外環境での見え方を想定して処理された映像を液晶に表示することができる。自転車旅では直射日光の下で写真を撮ることも多いけれど、そういえばKPを使ってから露出設定を大外しすることがなくなった。
厳密なことを言えばアウトドアモニター+2のモードはハイライト情報が掴みづらくアンダー気味になることはあるけれど、ヒストグラムと比較するうちに特性が理解できてきた。
液晶が見やすくなる、それだけの機能ではあるものの前述の通り片手のワンアクションでアクセスできるので、光量の変化が激しいフィールドを想定した良い機能だと思う。
操作感繋がりでいくとKPのグリップはS〜Lのサイズを選べる交換式で、初期状態だとフィルムカメラチックなSグリップがついている。同社の小型単焦点シリーズのリミテッドレンズなどスナップ用途ならこれがいいけど、ズームレンズだと小指でバランスを支えがちになる。これはMグリップに交換したところ大幅に快適化できた。Lサイズは大口径レンズやバッテリーグリップの使用を想定したものなので現状はMグリップでいこうと思う。
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Sグリップ(左) / Mグリップ(右) このメーカー、たまにこういうところを頑張り出す。 |
また、強いて操作系の難点を上げるとしたらFxボタンがちょっとだけ押しづらい。
他機種だとでっぱりのあるボタンだったのがKPではフラットなデザインに変更されているので、指先をひっかけてポチ、というよりは指先でボタンの位置を探ってギュッと押し込むような感触。不便というほどではないけれど、左手のボタンはファインダーを覗いたままだと押しづらいことがある。
○ 最新マウント対応/間接的にAF向上
※絞り制御に対応したKAというマウントが前身にあり、AF対応時に"F"が追加されたので実は"King+Aperture+Focus"がKAFと略されているトリビア。
※普通にAuto Focusの略なのかもしれないけど、KAAFだと紛らわしいからAを削ったんだろうなという話。おそらく。
K-5IIはこのうちKAF3までのレンズに対応していて、一応PENTAXのレンズはほぼ全て動かすことができる。しかしKAF4には対応していないため、具体的には電磁絞り(機械的なレバーではなく電気信号で操作する絞り)を調整することができない。
このレンズはコンパクト超望遠としてもツーリング適性が高かったので導入してみたところ、他社のステッピングモーター採用レンズと遜色のないスムーズなAFが実現されていた。いやまぁ、DCモーターより速いのは分かっていたのだけれども。もちろん精度はボディ性能に依存するし、KP、K-1IIと体験で触ってみたK-3IIIとを比較してみるとやはりKPは動体に積極的に選ぶカメラではないと思う。森をバックにしたトビでもそこそこ追えたK-3IIIに比べて、KPはオート任せで攻めるには安定感は足りていない。
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小型、高倍率、防滴と「ツーリングに超望遠を連れて行くなら俺にしろ」と言わんばかりの HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE フードを収納するとマグカップ並のサイズ感で携帯できる。 |
これはまずいです!
当初はレンズ単体で20万強という前モデルから大幅アップの価格設定だったので心置きなく導入は見送ろうと思っていたら、実売が17-18万まで下がった上に公式の下取りキャンペーンまで始まってしまったからソワソワしてきてしまった。
ちなみに前世代機となるK-3/K-3IIもファームウェアのアップデートでKAF4に対応できる。
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超望遠に手を出してみて鳥の面白さに気づいたけれど、鵜は難しい。全然止まってくれないぞこの鳥。 ほんの数秒息継ぎすると何十秒も潜っては全然違う場所から顔を出す。まるでもぐら叩きの様相。 HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE 1/250s f/8.0 ISO200 210mm(トリミングあり) |
またKPで惜しいのは折角チルト液晶なのにライブビューのコントラストAFが遅いところだろうか。
レンズの組み合わせと被写体の条件によってはフォーカスリングが何度も行ったり来たりする。
なので設定をレリーズ優先にしておいて、AFが迷ったときは即クイックシフトフォーカス(MF)で直してシャッターを切るという使い方をしている。その点だとK-70は位相差AFに対応したセンサーを積んでいるので、ファインダーを覗かないスタイルがメインの人はKPよりそちらがおすすめ。
以上は常に動きまわる昆虫や野鳥を撮ろうとした場合の感想なので、風景や置きピンが使える場面では全く問題ない。
○ 防塵防滴システム
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「一眼?大手三社はいいぞ!」と伝えたのにKPを買った知人が2人。どうして。 実際のところ小型軽量の防滴レンズが充実しているので自転車旅との親和性は高い。 「天気が読めない日でも気軽にぶら下げておけるカメラ」という見えないスペックが活きてくる。 |
・AW (All Weather=防塵防滴)
メーカー問わず防塵防滴で過信禁物なのは濡れた後の処理。シーリングとマウントの隙間に水が溜まった状態が続いて錆びてしまったケース(知人のKPユーザーの一人)(台風600km完走系ランドヌール)もあるので、定期的にケアはしたいところ。
△ バッテリーの持ち
KPになってからチルト液晶やアウトドアモニターを併用したライブビュー撮影を多用するようになったことも体感的にバッテリー容量が少なく思えてしまう一因だろう。客観的にもバッテリーは一回り小さいエントリー機種向けのものが採用されていて、これはボディの薄さやグリップ周りの造りを考えると仕方ない面もある。
K-5IIのバッテリーの持ちを120点とするならKPは85点ぐらいで実用上困るほどのレベルではないけれど、ここが唯一にして最大の欠点。
後継機種として「KP II」が出るなら、バッテリーは是非大型化してほしい。
【2022.1.9追記】
バッテリーグリップ導入!重量とサイズは犠牲になったのだ。
試写ではD-LI109だけで運用してみたけど十分長持ちを実感できた。
マグネシウム製の本体と違いプラスチックの外装なので質感や使い込んだときの擦れは気にならないでもないけど、金属製だと重くなるのでこれでよし。それでも重量増のデメリットは当然のごとくあるので、自転車では素直に予備バッテリー運用になる。
Lサイズグリップとの一体感があるデザインがなかなかいい感じ。
△ 個人的にそんなに気にならない欠点
RAWで高速連写すると1秒ちょっとで息継ぎが必要になってしまう。
とはいえ撮れるに越したことはないのでK-3III以降の進化に期待したい。
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撮れなくはない!けど折返しで羽ばたきが止まる瞬間などシビアな求め方には厳しい。 高速連写が得意なカメラと比較すればの話。 HD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR RE 1/1000s f/7.1 ISO400 260mm(トリミングあり) |
動画撮影に適した静粛性の高いステッピングモーター採用レンズがまだ少なく、手ブレ補正も光学式ではなく電子式になってしまうのでクロップされた画質と歪みを許容できないと難しい。
この点も最新機種のK-3IIIでようやく4K/30fpsに対応したところなのでPLMレンズの拡充と併せてちょっと期待したいところ。
ちなみにK-5IIと比較すると
・ファイル形式 : AVI → MPEG-4 AVC/H.264
・フレームレート : Full HD 25fps → Full HD 30fps
といった風にほんのちょっと改善されてはいる。侘び寂び。
結論
なおKシリーズの命名で「K+大文字アルファベット」という組み合わせは当機が初。
(小文字アルファベットはエントリーやファミリー向けのラインナップとしてかつて存在した)
ということで、やはり実験機的な意味合いも持っていたと思われるKP。
そしてそれだけに、今年に入ってこのカメラがディスコンとなったのは惜しかった。
ちょうどフラッグシップAPS-Cが発表された時期だったがKPはチルト式液晶など差別化もあり人気の高い機種だったので、部品供給など外的な要因なのかもしれない。
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フィルム時代のレンズでも手ブレ補正が効くし、全機種AFカプラーを採用しているので(作例はMFだけど) ボディがほとんどレンズを選ばないのもある意味PENTAXの特徴、個人的には長所。 写真は手ブレ補正を過信してISOをケチったら微ブレしたお刺身。早く食べたかったので。 SMC PENTAX-M 1:1.4 50mm 1/25s f/たぶん4〜5.6らへん ISO800 |
何にしても自分の選択に満足できるのが一番なので、今回紹介した機材に限らずカメラに興味のある人が調べてみるきっかけにでもなれば嬉しいなと。
すっかりレビューが遅くなったけど、引き続きガシガシ使い倒していきたい。
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リコーさんが新型のK-3 MarkIIIの体験会を開催されていて雨も降らなさそうだったので、ちょっとストライダを引き連れてポタリングしてきた。店頭ではなく実際のフィールドで撮り歩けるこういう企画は非常にありがたいし、今後の検討にあたって大いに参考になった。
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お借りしたのはK-3IIIとレンズ2本 (DA20-40mm Limited & DA55-300mm PLM)。 奥のKP+55-300mm PLMは自前機材。近い条件で比較検証ができた。 |
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