2024年に新しく一眼レフを買ってみた話 / K-3 Mark III
「カメラ」という言葉が指すものも、時代とともに変わってきた。
技術発展が目覚ましいまさに日進月歩の世界で、ある意味成熟を遂げた一眼レフ。
久々にカメラのボディを購入したので、作例と併せてレビューしてみる。
2020年台でカメラといえば、もっぱらスマートフォンかミラーレスカメラを指すようになった。
筆者が幼少期だった頃「カメラ」の代名詞といえば写ルンですやフィルム一眼レフだった。2000年代になるとデジタルカメラが一気に発展し、一家に一台以上のレベルでコンデジやデジタル一眼レフが普及した。
一眼レフとミラーレスの違いは、文字通りミラーの有無。細かく言えば、レンズの光をプリズムなど複雑な光学部品を通して撮影者の目に届けるか、ダイレクトにセンサーに光を当てて液晶画面に反映させるかの違い。技術的なハードルがクリアされた現代では後者、ミラーレスの方がより少ない部品で軽量なカメラを作ることができる。
より身軽で撮影が効率的になるミラーレスカメラが普及したのは、やはり順当な時代の流れ。
大人になっていまだに自転車旅を続けている理由にも通じていて、移動手段としての効率だとか健康増進とかは二の次三の次。
「楽しいから」に勝る理由はない。
というわけで、数年ぶりにPENTAXのボディを購入してみた。
K-3 Mark III、かなり楽しい。
このモデルが発売されるまで、PENTAX Kマウントの最上位機種はフルサイズのK-1 Mark IIだった。
現在のPENTAXのラインナップはシンプルな3機種構成で、1種類のフルサイズ一眼レフと2種類のAPS-C一眼レフに分かれている。K-3 Mark IIIはAPS-Cの上位機かつフラッグシップモデルの称号を掲げている。
フラッグシップ機がどんなカメラを指すかはメーカーによって異なるし、厳密に言えばK-5やK-3といった従来の上位機種も発売当時のフラッグシップモデル。しかしK-3 Mark IIIは発売まで特に長い開発期間を要した機種で、操作性から撮影性能まで根本的な改良が施されある意味フルサイズ機以上の性能を与えられたために「APS-Cフラッグシップ」の座に位置するカメラとなった。
性能がアップしたと言ってもこのご時世なので、動体性能を追求したい人は既にミラーレス機に移行しつつあるのも確か。PENTAXは動体向きのレンズのランナップも決して多くないので、その点もネックではある。ただ、カメラの過剰な高画素化や重量増大は日常の使い勝手に影響するのに対して 、AF性能はいくら向上しても困る人がいないスペック。そういう意味で、大規模アップデートされたこのカメラの存在は120%歓迎している。
導入に数年かかってしまったのは先にレンズ沼にはまったから、というのはここだけの話。
単に高性能を追求するだけでなく、トレンドの流行り廃りで損なわれないメーカーの拘りも注ぎ込まれているのがK-3 Mark IIIの強みでもある。
ミラーレス全盛の時代に「撮影体験」で訴求するために光学ファインダーの見やすさを追求したところがこの機種の目玉ポイント。実際に覗いてみると、本当に視野が広くて明るい。もともと定評のある操作性も更に磨きがかかっており、ボタンやダイヤルの操作感に至るまでしっかりと作り込まれている。
個人的にはミラーショックの軽減された軽妙な、しかしメカの存在を感じるシャッターフィールが好み。
K-1・KPゆずりのスマートファンクションダイヤルは、新設されたS.Fnボタンを併用することで親指だけで機能の切り替えができるようになった。また、このダイヤルをはじめとする操作のカスタム自由度は非常に高くなった。具体的な例を挙げるとスマートファンクションにユーザーAFが割り当てられるようになり、サブダイヤルを回すだけで複数のユーザーAF設定を行き来したりと自在な操作が可能になったのも大きい。これによってAFモード切替が右手だけで完結するようになった。
数値的な話をするなら倍率1.05倍の広い光学ファインダー、5.5段5軸のボディ内手ぶれ補正、最高12コマ/秒の連写速度、いずれもAPS-C一眼レフとしてトップの性能。USB-C充電やWi-Fi / Bluetooth接続が標準対応となっている点も2020年台に発売されたカメラらしい要素。
防塵防滴や耐寒-10℃といった耐環境性の高さは当たり前に盛り込まれていて、加えてスペックシートで分からない部分で言うと操作のレスポンスがとにかく軽快。シャッターボタンを半押ししたときの反応速度からカメラ内現像の処理速度まで、全てがスムーズになっている。
これだけ盛り込んだにも関わらず従来機と同等の小型軽量な設計に収まっているから驚き。PENTAXにはコンパクトな設計のAPS-C用レンズが多いので、一眼レフながらパッキングサイズは大きめのミラーレス機材と遜色なかったりする。
全部。
と言ってしまえばそれまでだけれど、特に長年PENTAXをメインに使ってきた人間からすると新鮮で便利な機能がたくさん備わっている。また各メーカーのレフ機を並べてみると業界的には2010年台で開発が停滞している側面が強く、ミラーレスでは標準的となった仕様が一眼レフに組み込まれている点も貴重だったりする。
先述したUSB-C対応もそのひとつで、これまでは旅程に応じて予備バッテリーや充電器を持ち歩いていたのがモバイルバッテリーひとつで完結するようになった。欲を言えば電源ONでも使える給電機能も欲しいところだけれど、このカメラは静止画が主な用途なので充電対応で十分な気もする。バッテリーグリップを使えば、おおむねどんなシチュエーションでも足りないことはないと思う。
USB-C対応のメリットはもうひとつ。自宅での充電時もバッテリーを取り出す必要がないので、外出時にバッテリーを入れ忘れてしまうミスも物理的に回避できるようになった。予備バッテリーを持っていてもやらかす可能性はゼロではないので、これは地味に助かる。
APS-C機としては初めて対応したクロップ機能も地味に便利。
上の写真は16-85の望遠端でクロップ撮影したシジュウカラ。85mm × 1.53 × 1.7 = 221mm相当の望遠画角になっている。2600万画素とベースの画素数がそれなりに高いので、1.7倍クロップでも890万画素とそれなりの画質を確保できる。EVFと異なりファインダー像自体は拡大されないのは御愛嬌。
1.3倍クロップならK-1のAPS-Cクロップと同じ1500万画素となり、こちらも感覚的に使いやすい。
PENTAX機の動画撮影に多くは求めない……というのが通例だけど、K-3 Mark IIIに関しては久々の動画機能アップデートが果たされた。4K撮影、動画撮影時のセンサーシフト式手ぶれ補正(従来は電子式手ぶれ補正)は現代基準だと普通のスペックかもしれないが、やはりあるに越したことはない。
大きな変更といえば、新たに加わったタッチパネル。
K-3 Mark IIIはリコーイメージング社のGRIIIのファームウェアをベースにしていて、タッチ操作を含む操作性の多くを共有している。ライブビューや動画撮影時に素早く測距点を指定できるのはもちろん、撮影後のピント確認もクイックビューから2回タップするだけなのでお手軽になった。
より細かい話をすると、透過液晶の水準器の位置が見やすくなったとか、似た位置にあるボタンの触感が使い分けられているとか、上位機らしい気配りが行き届いている点も良い。中でもグリップの握りやすさはこれまで使ってきたカメラの中でも随一かもしれない。
次の項目で詳しく述べるが、一眼レフながら顔認識・瞳認識にも対応していたりする。
PENTAXユーザー的な目線だと、AF性能の向上は革新的。
AF測距点は従来の27点(フルサイズでも33点だった)から101点とトリプルスコアに増強され、ファインダー内のカバー範囲も広くなった。あくまで一眼レフとして……という但し書きは必要かもしれないが、3桁のフォーカスポイントは動体機として十分な水準を満たしている。従来のPENTAX機は前後に動く被写体に弱かったが、これもアルゴリズムの見直しやミラーの再設計で大きく改善された。
APS-Cの動体機といえばNikon D500がベンチマーク的な存在になっていて、D500に比べるとK-3 Mark IIIのAF性能には改善の余地があるという意見も耳にする。店頭で触ったことしかなかったのでコメントはしづらいけど、確かにNikonの3Dトラッキングの技術は凄い。測距の追従スピードも食いつきも良いし、ピント位置も分かりやすい設計になっている。動体に強い望遠レンズが多く揃っているのも野鳥やスポーツを撮影する人には重要なポイント。
また、近年のトレンドはD500のさらに上を行く高度な被写体認識AF。例えばK-3 Mark IIIの長所とした101点測距も、最先端ミラーレス機の500〜1000点測距という桁違いの性能に比べると物足りなさすら感じるかもしれない。
やはり激しく動く被写体を効率的に撮影するには最新のミラーレス上位機が最善の選択肢だと思う。
K-3 Mark IIIは、やはり光学ファインダーへの拘りが購入動機として大きい。
撮ってみるまで撮影結果が分からない一眼レフは、自分の思い描いた画を出力するためにファインダーの光景を観察して道筋を立てる必要がある。そのせいか、旅の風景なんかはこころなしか写真に写っていないものも細かく記憶している感覚もある(これはちょっと思い込みかもしれない)。
ミラーレスでの撮影は撮り直しが少なく歩留まりが良かったり、AF領域が広いおかげで構図作りに集中できたりと別のメリットがある。効率のよさは趣味の撮影でも時間の余裕を生んでくれるかもしれないし、どちらが良い悪いというより目的に適しているかどうかの問題。
写真を趣味にしている身としては、懐事情が許すなら両方を手元に置きたい気持ちがある。
とは言いつつ、K-3 Mark IIIのAF性能は実際なかなか良い感じ。
K-3 Mark IIIも測光用のAEセンサーを被写体認識に活用する技術を採用していて、測距センサーが従来の8.6万画素から30.7万画素に一気にアップグレードされたことで顔や瞳の認識率が向上した。
基本的に筆者はシングルAF派だけど、頭上を鳥が通過する瞬間や、親戚の子供が駆け寄ってきたとき咄嗟にファインダーに捉えたくなる機会がたまにあったりする。このカメラは操作のカスタム性も高く、筆者の場合はAE-Lボタンを親指で押している間だけ全自動AFを呼び出せる設定を適用している。
親指AF(または親指AFキャンセル)と似たような感覚でボタンを押してレンズだけ向ければ、咄嗟のチャンスも撮影できるのは色々と便利。ファインダーを覗き込むスタイルが基本ではあるが、そういう撮り方も選択肢としてあるとやはり嬉しい。
└ AE-LボタンでAF.C / オートエリアに切り替え
AF.S & AF.C1コマ目の動作:レリーズ優先
AF.C 連続撮影中の動作:オート
AFホールド:オフ
AF.C時の測距点追尾方法:Type 1
AF.C時のピント感度:5
被写体認識:オン
アイセンサー測光連動:オン
よく欠点として取り上げられる望遠レンズ不足について。16-50や55-300はステッピングモーター搭載で現代的な水準に達していると言えるが、かたや明るい標準ズーム、かたや開放F値6.3の小型望遠ズームで、動体機の本命とも言える大型望遠レンズに焦点を当てるとK-3 Mark IIIのボディ性能を活かしきれないと感じることが確かにある。
と言いつつ現在望遠のメインとして使っている150-450で大抵のシーンは撮れてしまうし、単体でFF換算690mm、テレコン併用で960mm相当までカバーできるので野鳥撮影にそれほど不足は感じていなかったりする。個人的にはもっと速いレンズがあったらいいなぐらいの感覚。
K-3IIIで冬場の野鳥撮影はまだなので、KP+150-450の作例。 枝葉の見通しがよくなり野鳥も餌集めで活発になる季節が楽しみ。 |
余談となるが、PENTAXにはLimitedレンズに代表される古い駆動方式のレンズも多い。モーターを内蔵せずカプラー経由で駆動するレンズはボディAF式と呼ばれているが、K-3 Mark IIIのボディAFは従来より高速化されていて動く被写体にも対応しやすくなっている。モーター音は従来通りそれなりに出るものの、ボディAF式のレンズを多く持っている人にとってはお得なポイント。
手持ちのK-1 Mark IIやKPと比較すると、ざっくり20〜30%速くなっている。
AFについて総括すると、一眼レフ内でトップクラスとまではいかないが十分優秀になった。
ミラーレスほど食いつきはよくないので外すこともあるし、動物や乗り物はあまり認識しないこともある。冒頭で述べた通りAF性能は過剰で困るということはあまりないからもっと欲を言うこともできるけど、個人的にはお世辞抜きで満足いく水準だと感じている。
開発費をはじめリソースの制約が大きいPENTAXが、ほとんどパーツの流用もない一眼レフの新型機を令和の時代に出したことはまさに偉業。手放しで全面的に肯定したい気持ちもあるが、日進月歩のカメラ製品なので完璧な機種というのもなかなか無い。気になった要素も取り上げることにする。
もっとも目立つウィークポイントは固定液晶。可動式にできなかった事情はあれどKPのチルト液晶やK-1 Mark IIのフレキシブルチルト液晶に慣れ親しんでいたので、発売当初はK-3 Mark IIIを導入するか大いに悩む要因となった。しばらく使ってみた現在もやはり液晶だけ引き出したい場面は少なくないので、万が一Mark IVが登場するならチルト式に期待したいところ。
また、K-3 Mark IIIにはGPSが搭載されていない。手持ちでGPS内蔵のK-1 Mark IIは撮影した全ての写真に自動で位置情報を埋め込むことができていたので、ここは若干不便になった。林道ツーリングや登山では撮影場所の特定が難しかったりするので、やはりK-3IIのスペックを引き継いで欲しかった部分。
なお、K-3 Mark IIIではGPSの代わりにスマホとのBluetooth連携が可能。位置情報の自動転送を有効にすることでアストロトレーサー以外の機能はおおむね代替できる。ただし常時接続だとスマホのバッテリー消費が増加し、節約のために接続時間を限定するとたまに再接続を忘れるというジレンマがある。乾電池式ではなくUSB-C経由で本体から給電できる超小型GPSユニットがあったら欲しいかもしれない。
GPS非搭載は惜しい部分だが怪我の功名というべきか、アストロ・トレーサーにGPS非使用モードが追加されたことを書き加えておく。
Astro Tracer = 天体追尾 の文字通りGPS情報から現在位置やカメラの角度を割り出し、構図内の星の移動量に合わせて手ブレ補正ユニットでセンサーを追従させるというのがアストロレーサー。いわば簡易赤道儀機能だ。
アストロレーサーType3ではGPS取得の代わりに予備撮影を行い、予備撮影データから検出された星の移動量をもとにセンサーを移動させる。この方式はGPSの誤差にシビアな望遠撮影ほど有利で、一方星像が小さい広角レンズでも案外使える。
HD PENTAX-DA★16-50mm F2.8 ED PLM AW
40.0s F2.8 ISO100 19mm
雲が出ている状況や星景撮影など構図内の星が少ない場合だと予備撮影が失敗してしまうこともあるが、たとえば建物内の展望室などはGPSが精度不足に陥りやすく、赤道儀の持ち込みも困難なことが多い。そういった状況でも気軽に天体撮影ができるという強みも同時に持っているのがType3だ。
ちなみに従来のGPS非搭載機種と同様に、別売りの専用ユニットをホットシューに装着すればGPSを用いた従来のアストロトレーサーも使用可能。星景向けのType2も追加されたので撮影の幅をより広げることができる。
GPSに関してフォローを挟みつつ2点挙げてみたが、逆にいうと目立つ要素はそれぐらいだろうか。
プロセッサの性能が上がったせいか夏場は発熱しやすいとか、UHS-IIスロットが片方しか対応していないとか、連写性能に対してバッファが保たないとか他にもいくつか挙げることはできる。ただ、不満というほど困っている部分ではない。
長所ではAF性能やタッチパネルといった目新しい部分にスポットを当てたが、マニュアルレンズ使用時の絞り値記録機能、サイレントシャッター、電子シャッター時の手ぶれ補正対応、ファーム更新で追加された新機能など細かいながら嬉しかった要素は盛りだくさん。スマホアプリとの連携も充実して転送速度も従来比爆速だったり、書き出すとキリがなくなる。
その中で、買ってよかった点を3つに絞るならファインダー、レスポンスを含む操作性、AFとなる。
グリップの握りがとても良いので野鳥撮影によし。
また、最近のカスタムイメージは里びやGold、対応レンズ限定の九秋がお気に入り。
APS-C機で対応しているのはK-3 Mark IIIとKFのみで、これらの画像仕上げが使えるようになったのが自分の中では何気に大きい。PENTAXはカメラ内RAW現像がとても使いやすく(パラメーターが豊富で編集結果が見やすいUIになっている)、旅先や帰りの電車の中で写真弄りをするのも楽しみのひとつ。
(Goldと九秋はK-1 Mark IIで撮影した写真)
そんなK-3 Mark IIIだが、ブラックモデルが今春に生産完了となってしまった。買うのが遅かったとも言えるしある種の口実になったとも言える。シルバーモデルは引き続き販売中で、今後はK-1 Mark IIがメインに絞られるのか、マイナーアップデート版のK-3 Mark IVが発売されるのかは分からない。
個人的には新製品のフィルムカメラが長く沢山売れたらいいな、とぼんやり思ったり。
とりあえず本記事で伝えたいことはひとつ。
2024年に購入した一眼レフ。実際かなり楽しいカメラだった。
おわりー。
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